その愛の終わりに
なんとまあ、面倒くさい。
山川は改めて東雲義直を観察した。
引き締まった体躯は細すぎず、しなやかな筋肉に覆われている。
顔立ちは女性受けしそうな甘さを持つが、整えられた口髭が年相応の渋味を引き出している。
「奥様のことが好きなんだろう?」
手癖の悪い友人が、こんな風に誰か一人にのめり込むなど珍しい。
思わず口をついて出た質問に、義直は深く考え込んだ。
「わからん。今まで付き合ってきた女は、俺の容姿や財産にしか興味がなかった。だが美都子は違う。美都子は頭が良いし、大変理性的だ。だから、攻略のしがいがある」
攻略という言葉を聞いて、山川は閉口した。
この男にとっては、恋愛とは駆け引きを楽しむ大人のゲームなのだと、再び思い知らされたのだ。
何も知らずに、ゲームの盤上に引きずり出された美都子に同情すら覚える。
「おい山川」
「なんだ」
気だるさを隠そうともせず、勝手にウィスキーのおかわりを注ぐ山川に、義直は言った。
「手を出すなよ」
誰のことを指しているのか、山川はすぐに察した。
声こそ単調であるが、義直の双眸は暗い光を湛えている。
本当に珍しい。
義直とは10年以上の付き合いになるが、この男がこんな風に誰かに執着するのは、記憶にある限り初めてである。
「人妻に興味はないから、安心しろ」
山川は、結婚を申し込めない、人妻や芸者といった立場の女には一切興味を示さない性格だった。
それは義直自身がよく承知している。
だがそれでも、念を押さずにはいられなかったのだ。