その愛の終わりに



嫉妬と独占欲を心の奥底に秘めている義直に遠慮して、山川は美都子へ貸し出す予定だった本を、書斎に置いていった。


「奥方によろしく伝えておくれ」


ただ一言、それだけ言うと、山川は東雲邸を後にした。

その背中を見送った義直に、先ほどまで話題に上がっていた人物の声がかかる。


「あなた?」


澄みきった水のように、すっと心に入るソプラノ。

耳に心地よく飛び込むその声に、義直は振り向かなかった。

いつもと様子の違う彼に、美都子は首を傾げたが、それも束の間。


「お酒くさいわよ。あなた」


いつになくはっきりとした口調から、彼女の呆れぶりが嫌というほど伝わる。

それが無性に面白く感じて、義直は美都子の体を手繰り寄せた。

天色のワンピースから覗く二の腕をじっと見つめている。

いつもと違う義直の様子に気づき、美都子は不安そうな表情で彼を見上げた。


「もうすぐ晩餐の時間よ。食堂に行きましょう」

「ああ、うん」


明らかに上の空で生返事をする彼に痺れを切らし、美都子は、如何にしてこの酔っ払いを食堂まで連れていくか考えた。

その刹那、美都子の上に大きな影が落ちてきた。

唇が触れる柔らかい感触に、思わず目を閉じる。

啄むようなキスは、あっという間に舌を絡ませる生々しいものへと変わった。

口内に残る濃厚なウィスキーの味は、二人の唾液でどんどんその風味を失っていく。

いつの間にか、美都子は義直の机を背にするように追いやられていた。

ようやく唇が離れたと思ったら、首筋にキスの雨が降る。


「んッ」


首筋から走る甘い痺れに耐えきれず、美都子は体をよじった。

しかし義直は、そんな美都子を追い立てるように、首筋に吸い付きながら鎖骨をなぞる。


「あうッ……や!」


ワンピースの上から胸をまさぐられ、美都子は今度こそ義直を突っぱねようとした。

こんな調子だと、本当に晩餐に間に合わない。

説教しようと口を開くも、またしても義直の唇に塞がれてしまう。

舌を絡めとられ、蹂躙されているうちに、どんどん体の力が抜けてくる。

義直は手早くボタンを外し、やや強引にワンピースの生地を引きずり下ろした。

まろび出た乳房に顔を寄せ、その先端を口に含まれた瞬間、美都子の口から出たのは抗議の声ではなく、甘ったるい嬌声であった。

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