その愛の終わりに
結婚生活で一番の収穫は、贅沢な生活でも、姑との良好な関係でもなく、夫との甘美な時間である。
義直に抱かれるたびに、美都子はそう実感していた。
「あなたッ……もう、んッ」
細くしなやかな指が臀部をなで回すたびに、勝手に腰が動く。
シーツの上にポタポタと水滴の垂れる音を聴き、美都子はきつく目を閉じた。
義直とのこの行為は、彼に主導権があり、美都子には一切の権限がなかった。
それでも苦痛に思ったことがないのは、単に義直の技量のためである。
あまり女遊びをしない割りに、彼の女を抱く技術はいやに高い。
「久しぶりなんだ。痛めつけたらかわいそうだろう?」
足の付け根をなぞるだけでそれより先に進もうとしない義直に、美都子は首を振った。
四つん這いの姿勢であるため表情は見えないはずだが、義直にはわかっていた。
ひたすら焦らしながらゆっくりと指を埋めていくと、美都子の口から小さくあえぎ声がこぼれた。
くすぐるように中を解しにかかった義直の指を、美都子のそこは貪欲に呑み込んだ。
「ああッ、うあッ」
甲高いあえぎ声に恥じ入る暇もなく、美都子はシーツをきつく掴んだ。
指を引き抜かれ、名残惜し気に振り返る美都子の頭を撫で、義直は男根を宛がい、緩やかに沈めていく。
待ち望んだ圧迫感に、美都子は忘我の境地に飛んでいった。
快楽の波が引いたあとは、しばらく夫の腕の中で寛ぐ。
ここまでは、いつも通りであった。
「明日、友人が泊まりに来るんだ」
「ご友人が?」
義直の友人には外れがない、というのが美都子の見解である。
女性を楽しませるだけではなく、美都子の知的好奇心を刺激するような話題を提供してくれるため、義直の友人が訪ねてくるのは美都子の密かな楽しみであった。
「今回はどなたがいらっしゃいますの?」
「山川という悪友だ。医者をやっていてね、つい三ヶ月前までドイツにいたんだ」
「まあ、ドイツに!」
子供のように目を輝かせる美都子に、義直は穏やかに微笑んだ。
「なぜ君が女学校卒業まで縁談がまとまらなかったのか、改めて納得したよ」
「それは遠回しに不細工とおっしゃっていますの?」
目に見えて機嫌を悪くする美都子を抱き寄せ、からかうように義直は呟いた。
「向学心旺盛だから。怠け者の男には扱いかねるだろう」