その愛の終わりに
その痛みこそが何よりも明確な答えなのだが、美都子はそれを口にすることが出来なかった。
同じく、自分の気持ちを認めてしまうのが怖かった。
そうしたら最後、義直と同類になってしまう。
そう思うと、この想いを汚さないためにも、一生口をつぐんでいるべきだとすら思ってしまうのだ。
「美都子さん、聞きなさい」
山川が気遣わしげに美都子を覗きこむが、子供のようにボロボロと泣き崩れた顔を見られたくなくて、美都子は咄嗟に顔をそらした。
「私は、あなたには何も求めない。優しい眼差しも、愛のある言葉も、口づけも、あなたにそれらを求めたりしない」
愛の告白をした直後に、矛盾するような言葉である。
その意味がわからなかった美都子は、ただじっと耳を傾けた。
「私があなたに差し上げます。偽りのない愛を。あなたは、必要なときに私の愛を受け取り、いらなくなったら捨てればいい」
雷に打たれたような衝撃に、美都子は息を呑んだ。
「なぜ?どうしてそこまでしてくださるの?」
「理由などありません。ただ、私がそうしたいからするだけだ」
その言葉と共に、再び茉莉花が香る。
官能的なその匂いに、息があがりそうになるのを、美都子は必死で抑えた。
現実味のないこの陶酔感は、山川の言葉のせいなのか、茉莉花の香りのせいなのか。
白魚のようにすらりとした指を伸ばし、美都子は左手の薬指から、鈍く光る指輪を抜き取った。
その意味を理解した山川は、熱に浮かされたような声で言った。
「……私を受け入れてくれるのか?」
「はい」
思った以上にはっきりとした返事になってしまい、美都子は赤面した。
それに感極まったのか、山川は美都子の手を引き寄せ、きつく抱き締めた。
その強引さと、胸いっぱいに広がる山川の匂いに、ただただ胸が高鳴る。
この時間が永遠に続けばいいのに。
魔法にかけられたシンデレラが夢を楽しむように、美都子も力を抜いて山川の体にもたれかかった。
彼の肩越しから見る窓の外は、いつの間に雨が止み、夜の帳が降りていた。
そしてシンデレラと同じように、この時間は永遠に続かないと、美都子は思い出した。