その愛の終わりに
弐
翌朝になっても雪はやまず、少しずつだが東雲男爵邸の庭に積もっていった。
仕事を早めに切り上げて、室内で暖をとろうと、使用人がせわしなく動く。
今月は義母と付き合いのある淑女を何人か呼んでのお茶会があり、美都子はその準備のため、使用人達と共に、屋敷内を動き回っていた。
どの茶器を使うか義母から聞かれた時、美都子は努めて冷静に、山川からもらったマイセンのティーセットを差し出した。
冬の寒空のようなブルーの茶器は義母のお眼鏡に叶ったらしく、当日の茶器はそれに決まった。
家になかった茶器だったため、当然義母は誰からの贈り物か尋ねる。
山川について話す時、主観的にならないよう、好意を抱いていることに気づかれないよう、美都子は注意した。
彼については、義母はよく知らなかったらしい。
趣味の良い贈り物だとだけ言って、その話題はすぐに終わった。
美都子もそれ以上掘り下げることはなかった。
昨夜から丸一日降り続けた雪がにわかに止み、庭仕事や買い付けに行っていた使用人達が続々と戻ってきた頃、ハンカチに刺繍をしていた義母が短い悲鳴をあげた。
「どうしましょう!」
「お義母様、どうなさいました?」
「修理に出していたオルゴールを受け取りに行くのをすっかり忘れていたわ」
年をとると忘れっぽくなって嫌ねぇ、と義母はぼやいた。
仕上がりは今日の夕方で、明日は定休日らしい。
「確かそのお店、銀座でしたよね。車を出せば間に合いますわ。そろそろお正月の飾りも買わなければいけませんし、お買い物のついでに私が受け取りに行って参ります」
「そうねぇ、早めにお正月の飾りも用意しておいたほうが良いわよね。じゃあ、お願いするわ」
力作の刺繍を中断しなくて良いことに機嫌をよくした義母を尻目に、美都子は休憩中の運転手を呼んだ。
荷物持ちにお雪もついてきたが、美都子はそれを制し、まだ年若い下男を呼んだ。
「お雪も良い年じゃない。今日は荷物が増えるから、ここは若い人に任せましょう」
その気遣いに涙ぐむお雪にわずかな罪悪感を抱きながら、美都子は下男を乗せて車を走らせた。
お正月飾りを買いに行く先は東京大神宮である。
お雪が一緒だと、絵馬のところまで行くことは出来ない。
しかし、普段買い物に付き合わない下男なら、どうにか誤魔化すことが出来るだろう。
今回のは、そういう打算のもと生まれた気遣いであった。