その愛の終わりに
銀座でオルゴールを受け取り、東京大神宮で正月飾りを買った後、美都子はお参りをしてから車に戻ると言って、下男を先に車に向かわせた。
その姿が完全に視界から消えるのを待ってから、絵馬があるところに移動する。
絵馬を一つ買ってから、山川に残す言葉を考えた。
直接的な表現は避けねばならない。
もちろん名前を書くなどもっての他だ。
色々と考えた末に捻り出た言葉は、至極普通のものであった。
〝元旦の朝に社務所前で再会を願う〟
約束通り、一番上の柵の左端にかける。
次に会えるのはあと三週間ほど後であることに、美都子は小さくため息をついた。
その間に、一昨日の熱が冷めないか、ただそれだけが心配であった。
たった一日で急速に縮んだ距離は、どこか現実感がない。
せめて何か、物となって昨夜の証が残っていればよかったのに。
物が無理なら、身体に刻んでくれてもよかった。
そっと自分の唇をなぞり、美都子ははっとした。
自分の考えのいやらしさに、戦慄する。
いつからこんなふしだらな事を考えるようになったのか。
こんなことを考える人間だと山川に知られたら、きっと幻滅される。
頬が熱を持ち、美都子は自分の顔が赤くなっていると自覚した。
幸い今は冬だ。顔が赤らんでいても、特に違和感はない。
待たせている下男と運転手に不審に思われないためにも、そろそろ戻らなければいけない。
参拝客が何人かおり、今から順番を待っていたら、だいぶ戻るのが遅くなってしまうだろう。
参拝を諦め、美都子は鳥居を出る前に深々とお辞儀をした。
階段を降りるなり、下男が駆け寄ってきて外套の上に厚手のストールをかける。
「若奥様、だいぶ参拝客がいたようですね。お体が冷えてしまいますので、どうぞ車に」
どうやら思っていた以上に絵馬の前で長居してしまっていたらしい。
返事を求められていたわけではないから、美都子は無言で頷き、車に乗った。
やはり、お雪を連れてこなかったのは正解であった。
同行したのが彼女であれば、少しでも帰りが遅いと様子を見にきてしまっただろう。
しかしこれからは、外出の際にお雪以外の者を連れていくのは難しいだろう。
それに、毎回東京大神宮に行くたびに帰りが遅くなっては怪しまれる。
結局、山川からの使いを待つしか、会う方法はない。
もどかしさに拳を握りしめ、美都子は車内で目を閉じた。