その愛の終わりに
親族全員での晩餐が終わったあとは食堂と居間を解放し、酒を飲みながら除夜の鐘を聞くのが、東雲家の習わしであった。
年が明けたら家長が新年の挨拶をし、翌朝は子供がいたらお年玉を渡す。
そのあとは、各自好きな時に東京大神宮に初詣に行くのだ。
続々と集まる親族達に軽食を振る舞いながら、美都子は奈月に親戚達の歓待を任せ、一人玄関ホールで残り親戚を待った。
昼下がりにはすべての親戚が揃い、普段はひっそりとしている東雲家はにわかに賑やかになった。
子供達にはおやつを振る舞い、大人達には珈琲を出し、下男や女中を各客室に振り分け、荷ほどきを手伝わせる。
すべての作業が済んだ時にはもう日も暮れかけており、あっという間に晩餐の時間が近づいていた。
今年最後の洋装に、美都子はロイヤルブルーのイヴニングドレスを選んだ。
髪はあまり派手に結い上げず、大人しくまとめて、控えめな真珠の髪飾りをつける。
義直がいないため、エスコートをしてくれる人はいないが、美都子は奈月と共に今夜はホストであるため、問題はなかった。
家長の義直は不在であるため、乾杯の音頭は奈月がとり、晩餐が始まった。
一応上座、下座と席は決まっているものの、今夜は無礼講ということで、あちこちで話し声が飛び交っている。
直接言葉にはしていないが、竜一に苦手意識を抱いている美都子を気遣い、奈月は率先して竜一の相手を務めていた。
義母の心遣いをありがたく思いながら、美都子も竜一の妻のふみと当たり障りのない話を続ける。
今年を振り返って、あんな事件があった、こんなことがあったと誰もが好きに話している時だった。
「今年一番の事件といえば、やはり〝白蓮事件〟でしょう」
竜一のよく響く声に、というよりも、白蓮事件という単語に、食堂が静まり返った。
柳原白蓮。本名柳原燁子は、今生天皇の従妹にあたる女性である。
十月二十日、彼女は夫を捨て愛人のもとに出奔、さらに新聞上で夫に絶縁状を突きつけたのだ。
「まったく、陛下の従妹ともあろうお方がとんでもないことをしでかしてくれたものだ。女の分際で愛人を作るだけでは飽きたらず、夫に絶縁状を寄越すとは!それも新聞で!一体どんな教育を受けてきたのだか」