その愛の終わりに
除夜の鐘が鳴り響き、新しい年が来た。
今日ばかりは夜更かしを許された子供達が歓びの声をあげる。
明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします、その二言があちらこちらから聞こえてきた。
美都子も、奈月と親戚達がいるテーブルに挨拶回りに行った。
そして挨拶が済むなり、子供達と一緒に寝室に引っ込んだ。
適当な言い訳をする気でいたが、その必要はなかった。
強烈な眠気に襲われ、目を開けていることすら辛い。
いつもと様子の違う美都子に奈月も気がついたらしく、寝室に下がることを許可した。
ベッドに体を沈めた瞬間、美都子はあっという間に眠りに落ちた。
そして朝日の眩しさで目が覚めた時も、しばらくぼうっとしていた。
何分か経ってから、年が明けたのだと実感する。
風邪でも引いたのか、体からだるさが引いていないが、構わず美都子は起きて女中を呼んだ。
新春にふさわしい、若草色の留袖を纏い、しっかりと化粧も施す。
唇に紅を引く時、高揚感に手が震えたが、はみ出すことはなかった。
いつになく気合いの入った装いの美都子に、女中達がほうっとため息をついた。
仕上げにお雪が、鼈甲の簪を挿して髪を整える。
「普段の洋装もお似合いですが、やはり奥様は和装がお似合いですわ」
「寸胴体型だものね」
お雪の言葉に美都子が冗談めかしてそう返すと、女中達の間に笑いが起きた。
耐えきれず噴き出したのは新しい奉公人ばかりである。
「こら!立場をわきまえなさい!」
古参の女中の厳しい叱責が飛んだが、美都子は気にした風もなく手を振った。
「嫌ねえ、笑わせようとして冗談を飛ばしたんだもの。笑ってくれないと困るわ」
「奥様も、もう少し威厳というものをお持ちください」
なぜか、叱責は美都子にまで飛んだ。