その愛の終わりに
俺に感謝しろよ。
そう吐き捨てているのは、美都子の知る夫ではなかった。
強烈な目眩と頭痛が襲ってきて、わけがわからなくなりそうだった。
それでも、このまま好き勝手言われたままでいるわけにはいかない。
「あなたと一緒にしないで!確かに私は山川さんをお慕いしているけれど、体を許したことなどありません!求められたことだってないわ!」
自分がしたことは倫理にもとることかもしれない。
しかし、この身はまだ清廉であると何の躊躇いもなく言い切れる。
安直に体の関係を持とうとした自分を止めてくれた山川に、美都子は心の中で感謝した。
「だから私とあなたは違う、とでも言いたいのか?清純ぶるな!」
面と向かって罵倒されたのは人生で初めてであり、美都子も頭に血がのぼった。
「いい加減になさって!だいたいすべての元凶はあなたでしょう!?あなたが不貞など働くから、信じられなくなったんじゃない!どれだけ山川さんに惹かれたって、あなたが一途に私を想っていてくれたなら私だって山川さんを愛したりなどしなかった!」
こうなったのも全部自業自得じゃない!
そう叫んだ瞬間、ふと体から力が抜けた。
目眩がさらに酷くなったのか、目を開けることすらままならない。
床に体が投げ出され、したたかに全身を打ち付けるのかと思いきや、弾力性に富み、暖かな何かが美都子の体を守った。
遥か遠くから、美都子の名前を呼ぶ声が聞こえる。
その声と、体に馴染んだ体温から、美都子は義直に守られたのだと気づいた。
喧嘩をしている相手に守られたことが悔しいが、それでも安心しきった体には力が入らない。
そして、突然辺りは暗闇となり、美都子の意識は途切れた。