その愛の終わりに
普段以上に率直な物言いに、美都子の頬にさっと朱がさした。
その様を、義直は目を丸くして見ている。
が、次の瞬間には苦虫を噛み潰したような表情へ変わった。
「ここまで来ると否定のしようがないな。基本俺は人を信用しないし、疑う。だから、試すような真似をしたり愛情を測ったりもする。お前に対してもそうだ」
「そう……」
愚かだな、と思った。だが、それなら義直はどうすれば良かったのか。
山川によって初恋を知ったばかりの美都子には、わからない問題であった。
しばらく沈黙が続いた後、義直が美都子に背を向けた。
「あと二月ほどすれば、腹の子は安定するらしいな」
「お医者様はそう言っておりましたわ」
「……なら、二月後、山川に会ってこい」
何を言っているのか理解出来ず、また理解した瞬間に美都子の顔は雪よりも白くなった。
「何をおっしゃって……!」
「山川に縁談が来ていた。お前も妊娠した。別れを済ませるなら、お前の体が安定してからでいいだろう」
山川に縁談という言葉と、別れを済ませるという言葉のせいで、気が遠くなりそうだった。
義直と同い年ということは、山川も立派な結婚適齢期の男性である。
なぜ、縁談が来ることを予想出来なかったのか。
いや、それよりも、本当に別れる日が来てしまうことに、美都子は言葉を失った。
諦めようと思っていながらもその衝撃に耐えられそうにないのは、まだ諦めていなかったということだ。
呆然とする美都子の心中を察していながらも、義直はあえて気づかぬふりをした。
「……もとはと言えば、俺が招いた事態だ。明日、すべての愛人と手を切ってくる」
たいしたことではないかのように、そう言った義直に抱いた感情は複雑だった。
愛した女性がいながら、他の女性に手を出し、不要になれば切り捨てられる男の薄情さが、今は羨ましい。
そして美都子は女であり、さらに愛したのは夫ではなかった。
今すでに心が死にかけているのに、二月後に山川に会ったらどうなるのか。
恐らく、本当に心が死ぬだろうと、美都子は予感した。