その愛の終わりに
二人を別れさせるために、ここまでやるのか。
子供が出来た以上、どうせ別れなければならなかったというのに、望まぬ縁談まで押し付けるのか。
美都子は力の限りドアを押し開け、義直の部屋に押し入った。
「どういうこと?妊娠がわかった以上別れることになるのに、なぜ山川さんにそんな苦行を強いるの!」
自制心が剥がれ落ち、声が大きくなっていく。
いきなり美都子が乱入したことにお雪と義直は硬直していたが、すぐさまお雪が美都子をなだめにかかった。
「奥様、お腹の子供に障ります。落ち着いてくださいませ」
「お黙り!お雪、あなたが私を監視していたなんて知らなかったわ」
言葉を荒げ、強く睨み付ける美都子は、お雪の知る美都子ではなかった。
「別れる男の将来がなぜそんなに気になる?ああ、そうか、お前は俺と違うからな。山川の隣に他の女がいるのが許せないのか」
痛烈に皮肉を言う義直の目は、いつかと同じように、どろりと黒く濁っていた。
禍々しさすら感じさせる鋭い視線をものともせず、美都子は静かに答えた。
「ええそうよ。私は山川さんを愛している!出来ることなら添い遂げたいわ。でもそれが叶わないなら、せめて彼の自由を願いたい。次こそ愛した人と一緒になってほしい。そう思っているわ!」
一筋の涙が頬を伝う。
それを見た瞬間、義直の中で理性がぷつりと音を立ててちぎれた。
右手が風を切り、美都子の小さな顔をとらえる。
バシッと強い音が室内に鳴り響き、美都子の首ががくんと揺れた。
受け身を取れずそのまま後ろに吹き飛んだのを見て、お雪が恐怖のあまり悲鳴をあげる。
肩から脇腹にかけて床に打ち付けられ、美都子は鈍い痛みに歯を食いしばった。
お雪が助け起こそうとするが、力が入らないのか、ぐったりと倒れたままだ。
義直はそれらを呆然と見ていた。
自分のしたことが信じられなかった。今まで、一度たりとも女性に手をあげたことなどなかったのに、なぜこんなことをしたのか。
それも、妊婦相手に手加減をせず。
「旦那様!旦那様!!」
何をぼさっとなさっているのです!
早く奥様を寝室へお運びくださいませ!!
お雪の切羽詰まった声に、熱に浮かされたように義直は美都子に近寄った。
体を打った衝撃か、美都子は視点が定まらず、呼吸が浅かった。