その愛の終わりに
「なら、やめるかい?今なら汽車に間に合う」
穏やかに問う山川に、美都子はゆるく首を降った。
「雄二郎さん……結局、私は東雲姓のままだったわ。離縁していない状態であなたに着いていけば、あなただけではなく、色んな人に迷惑をかける。二人で新しい土地でやり直しても、そこに至るまでの間に何を失ったのか、私は忘れることは出来ないでしょう。本音を言うとね、もうこれ以上悩みたくないの」
「罪の意識に?」
「そうよ。生きている限りは永遠に解放されないわ。あなたを真っ直ぐに愛することも……」
自分は、もっともらしいことを言いながら、ただ逃げているだけの卑怯ものかもしれない。
間違った答えなのかもしれない。
幾度となくそう考え、今なお美都子はそう思っていた。
自分で下した決断に懐疑的であった。
しかし、突き進むと決めたのである。
それが結果として正しかったかどうかは、もはや当人である美都子と山川にはわからないことなのだ。
ならば、こうしようと思った方向に進んでしまいたい。
美都子の考えを分かっていた山川は、苦しげにため息をついた。
「情けないな……最後まで私は、あなたの役に立てなかった。それどころか、足を引っ張るばかりだ」
「ふふ、そうかもしれないわね」
悪戯っぽく微笑み、美都子はその先の言葉を飲み込んだ。
ここぞという時の決断力は、存外女性の方があるものなのだ。
山川の面子のためにも、それは絶対に言わないが。
「まだ夜は明けていないのに、朝が近づいているとわかるのはなぜなんだろうな」
「本当に……どうしてかしらね」
たわいもない話が出来る喜びを噛み締めながら、二人は空を見上げた。
あと一つ角を曲がれば、山川の診療所である。