好きだと言ってほしいから
 葵ちゃんが身を乗り出していた仲間に軽く手を振ってあしらう。そもそもこの話題を振った張本人だというのに。平岡くんも同じことを思ったらしい。

「んなこと言って、言い出したのは松崎だろーが」

「あら、そうだっけ?」

 あっけらかんと笑う葵ちゃんに平岡くんが突っ込むと、葵ちゃんが負けじと言った。

「まあ、逢坂先輩の名前を出したのはわざとだけどね。平岡くんに現実を見てもらおうと思って」

「……んなこと言われなくても充分現実を見てる男だよ、俺は」

「ふうん……。そうは見えなかったけど。ま、いいわ」

「お前、そんな性格だからモテないんだぞ。せっかくスタイルもよくて美人なのに台無しだ」

「別に平岡くんにモテたいなんて思ってませんから」

「ハッ、そりゃ俺だって同じだよ」

 二人がテーブル越しに睨みあう。何だかよくない雰囲気? 私は慌てて間に入った。

「ほ、ほら、葵ちゃんも、平岡くんも。せっかく久しぶりに会ったんだから喧嘩しないで仲良くやろうよ。ひ、平岡くんは滅多にこっちに戻ってこれないんだし。ね?」

 平岡くんは東京の大手食品会社に就職したからこのメンバーで集まるときもなかなか参加できないのだ。

 おろおろと二人を見やると、ぽかんとした顔の葵ちゃんと平岡くんの顔があった。何だか驚いているみたい。私、何か変なこと言っちゃったかな?
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