好きだと言ってほしいから
 逢坂さんは途中の洋食店で車を停めた。彼のマンションの近くにある、私も数回来たことのある店だ。奥に個室があり、店内は少し暗いけれど落ち着いた雰囲気の感じがいい店だ。

 正直、今日これから彼のマンションで夕食を作るのはずうずうしいような気がしていたから、ホッとした。逢坂さんもきっと私と同じことを考えてこの店にしたのだろう。

 私たちは個室に案内された。ドアがついた完全個室のこの部屋は、真ん中に四人用テーブルがあり、ヒノキで出来たベンチが壁にそって作り付けされている。オレンジ色のライトが一つ天井から吊るされていて、部屋の真ん中を中心に柔らかい光で包んでいた。

 私たちは向かい合って座った。

「麻衣はオムライスだよな?」

「はい」

 彼がいつものように私の好きな食べ物を注文してくれる。こんな光景は何も変わっていないのに。

 それから暫く、私たちはいつもどおりだった。私がオムライスを食べ、逢坂さんがチキンカツ定食だ。飲み物は二人ともウーロン茶。近所のノラ猫が隣の家の庭で子猫を五匹も産んで、家の人が貰い手を一生懸命探しているという話をすると、彼は「俺も探してみるよ」と言ってくれた。

 そうしていつもどおりの夕食を終えてお皿が下げられると、部屋の空気が急に変わった気がした。私は途端に緊張してきてテーブルに視線を落としたまま。逢坂さんも何も話さない。

 だけどそのままでいられるわけはなく、逢坂さんは一つ深呼吸をした後、私の名前を呼んだ。

「麻衣」
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