好きだと言ってほしいから
 私はへへ、と小さく笑って見せた。今思えばそうだったのか、と思い当たることはたくさんある。

 私は逢坂さんに告白することばかりを考えていたけれど、彼はこんなに素敵な人なのだ。大学にいた頃だって、とてもモテていたのは知っている。そんな彼だから、普通だったら恋人がいて当然だ。私が告白したとき、彼に特別な女性がいなかったのは、彼が将来、海外で働くことを希望していたからだったと考えると納得できる。

 だけど彼は、私の必死の告白も断ることが出来なかった。もちろん全てが同情だったとは思わない。いつも私を気にかけてくれる優しい彼。キスも、……エッチだって彼が初めてだった私に、彼はとても優しくリードしてくれた。彼の腕の中で、私は感じたことのない幸せに震えた。彼の愛情は確かに感じていた。

 それが不安と隣り合わせだったのは、私が自分のことばかり考えていたから。男である彼が、仕事に生きがいを感じ、希望を持っているのは当然だ。それなのに、私はそんな彼の心情を理解しようとせず、“好き”と言ってもらえないことにこだわり、怯えていたのだ。だから、最後くらいはいい女にならないと。

「転属の希望を出したのは、さっきも言ったけどまだ入社して間もない頃だったんだ。それからもう四年だ。俺自身、半分以上忘れていた。それについては諦めていたというか、今の俺にはまだ無理だろうと思っていたんだ。だけどこの前、人事部長に呼び出されて、俺の意思を再確認されたときは正直嬉しかったよ。俺の仕事を認めてもらえたんだ、ってね……」

「逢坂さんなら……当然ですよ。努力の結果です。本当に……おめでとうございます」

 彼の目を見つめて精一杯笑顔を見せた。大丈夫よね? 私はちゃんと笑えているよね?

「でも……」

 逢坂さんが躊躇った。僅かに視線を逸らしてテーブルに肘をついた右手で口元を覆う。そして暫く経ってから、再び私を見た。
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