好きだと言ってほしいから
「今は、麻衣がいるから……。入社したときの俺は自分のことだけ考えてればよかった。だけど今は違う。麻衣、君は……」

「逢坂さん」

 私は逢坂さんの話を遮った。頑張って最高の笑顔を見せる。

 彼は私のせいで念願だった転属を手放しで喜べていない。私の存在が彼の未来の足枷になっている。でも、そんなのは嫌。私は逢坂さんが好き。だから私は決めたのだ。笑って彼の背中を押すと。彼がなんの未練も残さず、新天地で頑張れるように、私は彼を応援したい。

「頑張ってください。きっと、色々大変なんでしょうけど、逢坂さんの希望が通ったんです。もっと喜びましょう」

「麻衣……」

「私なら大丈夫ですよ! 私、死ぬほど勉強して頑張って、今の会社に入ったんです。職場はみんないい人ばかりで楽しいですし、葵ちゃんだっています。それに、私には大好きな父もいますから。これからも父と一緒に仲良くやってけます。だから、えっと……うまく言えませんが、逢坂さんは自分のことだけ考えて前に進んでください」

 笑顔のまま一気に言った。ちゃんと笑って、彼を応援したいと伝えることができた。だけどダメだ。ここで少し休ませて欲しい。このまま彼の顔を見てたら、勝手に涙が零れそう。

「ごめんなさい、ちょっとお手洗い行ってきますね」

 バッグを掴むと席を立つ。ドアに手を掛けたところで腕を掴まれた。

「麻衣、待って」

 私は振り向けずに立ち止まる。やや間をおいて逢坂さんが言った。
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