好きだと言ってほしいから
「麻衣はお父さんといたいんだよね?」

 ぐっと歯を食いしばる。背後の彼に気づかれないよう、ゆっくりと深呼吸をした。そうしてからくるりと振り返った私はとびきりの笑顔を向けた。

「はい! だから何も心配することなんてないんです」

 逢坂さんが私の顔をじっと覗き込む。私の瞳の中にある嘘を見抜こうとでもいうように。だけどここで泣いたら全てが無駄になってしまう。私は笑顔を崩さなかった。
 やがて彼が微笑んだ。彼の肩が下がったから、きっと彼も安心したのだ。

「……分かった」

 ぽつりと呟かれた言葉は私の心に悲しく響いた。
 二年間付き合ってきたのだ。その間、大きな喧嘩もなく、彼はずっと優しかった。だからきっと逢坂さんだって、寂しく感じてくれたのだろう。私はこの寂しさに今にも押しつぶされてしまいそうだけれど……。

「じゃあ、ちょっと行ってきますね」

 そう言ってもう一度笑顔を作ると、私はトイレに駆け込んだ。家に帰るまであと少し、笑顔を崩さないように頑張れ、私。
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