好きだと言ってほしいから
* * *

 逢坂さんが異動の内示を受けてから一ヶ月が過ぎた今日、正式に辞令が下りた。社内掲示板に貼り出されたその紙を見るたびに、私の胸はやっぱりジクジクと疼くような痛みを覚える。

 逢坂さんの名前が書かれたその紙の前で「さすが逢坂さんね」と賞賛する声や「会えなくなるなんて寂しい」と嘆いている女子社員のあまりの多さに驚いた。人気があるのは知っていたはずなのに、社内ではあまりそれを感じたことがなかったから。

 逢坂さんは素敵だ。それはみんなが言うように、彼のルックスもだし、仕事ぶりもそうだ。だけど彼の魅力はそれだけじゃない。彼の一番素敵なところは、相手を思いやることができること。彼の優しさは無限大。私はそんな彼に二年間、存分に甘えさせてもらってきた。

 逢坂さん、あなたが好きです。二年前よりも重たくなったこの気持ち、私は一人で抱えていくことができるでしょうか。

 お昼休み、自分のデスクでお弁当を広げていると葵ちゃんがやってきた。手には珍しくお弁当箱を持っている。

「麻衣、今日は一緒に食べよ」

「うん」

 葵ちゃんは私の隣の席に座るとピンクのお弁当箱を広げ始めた。
 私はいつもお弁当を作って持ってきている。学生の頃からお父さんのお弁当をずっと作ってきていたから、私が社会人になった今、作るお弁当が一つ増えただけのことだ。

 だから私はこの会社の社員食堂は滅多に利用しない。葵ちゃんは社員食堂だったり外にランチに出たりしているようだけど、たまにお弁当を持ってくる日もある。そんな日は私たちはこうして一緒にお昼を済ませるのだ。
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