好きだと言ってほしいから
「ああ、うん。やっぱり遅くなるってよ」

「それをわざわざ確認に行ったの?」

「ま、まあな……」

 ジッと平岡くんを見つめる。彼は少し決まり悪そうに頬杖を付いていた。
 葵ちゃんが遅れることなんて、わざわざ確認しなくても分かっていたのに……。

「怪しいな~」

「あ、怪しくなんかねーよ。何言ってんだ」

 ちょっとうろたえている気がするのは気のせいだろうか。私はまた平岡くんの顔を覗き込んだ。

「ま、麻衣だって……どうなんだよ、最近は……」

「最近? 別に普通だよ。朝起きてお弁当作って、夕食の下ごしらえして、会社へ行って……」

「そうじゃねーよ。同じ会社だろ? バッタリ会ったら気まずかったりするだろーが」

「あ……」

 平岡くんが言っているのが逢坂さんのことだということはすぐに分かった。今度は私が言葉に詰まってしまった。

 逢坂さんと付き合うようになってから、彼が出張でいないとき以外は毎朝会社で会っていた。別れた今、さすがにそれは出来ないから、私は少し会社に来る時間を遅らせたのだ。本当は早く来てもいいけれど、あまり早いと指紋認証の入り口をなかなか通り抜けられない私が苦労するのは分かっていたから。

「……同じ会社でも会おうとしなければ、案外会わないものなの……」
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