好きだと言ってほしいから
「麻衣……」

 あれから一ヶ月経つけれど、私の声は震えてしまった。平岡くんが私の隣に移動してきて、そっと肩を抱いてくれる。

「……ごめん、まだ、つらいよな……」

 優しい言葉をかけられたらもう我慢が出来なかった。まるみる視界がぼやけてきて、私の頬を熱いものがツーっと伝う。

「ま、麻衣……」

 平岡くんもオロオロしている。
 彼のせいじゃないのに、これじゃ彼が泣かせたみたいじゃない。泣き止まなきゃ。
でも、そう思えば思うほど、私の涙は止まらなくなった。

「……っ……ご、ごめっ……、泣きたくなんかないのに……、わ、私っ……」

「麻衣……」

 平岡くんは腕に力を込めるとさらに私を抱き寄せる。だけどそれはほんの一瞬のことで、すぐにその温もりは離れた。そして激しい怒声が飛ぶ。

「なにっ……泣かせて、っんだよっ!」

 ハァハァと荒い息を繰り返して平岡くんの肩を掴んでいるのは、逢坂さんだった。
 私の目の前には、怒りを露わにした逢坂さんと、彼に掴み上げられた平岡くん、そしてその後方に葵ちゃんが立っていた。

 何が起こっているの?
 状況が飲み込めない私は涙で濡れた顔のまま、呆然と彼らを見上げた。
 遅れてくると言っていた葵ちゃんがいるのは分かる。だけどどうしてここに逢坂さんがいるの?
< 59 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop