好きだと言ってほしいから
「お前、俺に言ったよな!? 麻衣をもらうって……何いきなり泣かせてんだよ!」

 平岡くんを掴んだまま、眉間に皺を寄せて苦々しげに吐き捨てるのは逢坂さんだ。こんな彼は見たことがない。彼はいつも穏やかで、誰にでも優しくて、こんな風に怒りを露わにしたことはない。

「お、逢坂さん……」

 私がおずおずと彼の名前を呼ぶと、彼は今度は私を見て言った。

「麻衣も! 何でコイツなんだ! 何で泣いてんだ!」

 逢坂さんの言ってる意味が分からなくて、私は言葉を失ったままだ。
 すると店主らしき人がやってきて、逢坂さんの肩をそっと掴んだ。

「お客様、申し訳ありませんが他のお客様のご迷惑になりますので……」

 彼がこんな風にお店に迷惑をかけるのも初めて。逢坂さんはそれに気付いたのか、ハッとした様子で慌てて平岡くんから手を離した。

「悪い……」

「とりあえず、ここは出ましょう。麻衣、おいで。貢、あんたもよ」

 葵ちゃんが周りの人たちとお店のスタッフに謝りながら私たちを促す。
 私も軽く頭を下げて店を後にした。

「麻衣」

 店のあるビルを出て歩道まで出たとき、逢坂さんに名前を呼ばれた。
 眉尻を下げて項垂れる彼はとても傷ついているように見える。こんな彼を見るのも初めて。
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