好きだと言ってほしいから
 逢坂さんがグシャグシャと頭を掻きむしっている。
 昔、確かに彼に鍵を渡された。だけどまさか私が貰っていい鍵だと思わなかった私はその日の帰りに彼に鍵を返したのだ。てっきり、そうするものだと思っていた。彼に鍵を返すとき、何となく彼の反応も伺っていたけれど、彼は表情を変えず、当然のようにそれを受け取っていたし……。

「あれ、貰っても良かったんですか……?」

「当たり前だ! 俺は自分の鍵にクマのキーホルダーなんて付けないよ」

「ご、ごめんなさい……。私、男の人と付き合うとか初めてで、そういうこと、全然分かってなくて……。そ、それに、逢坂さん、いつも溜息ついてたし、絶対に私を泊まらせたりしないし、本当は私のことが好きじゃないのかもとか考えたりして……」

「……俺、溜息なんてついてた?」

「はい……。けっこう……頻繁に……」

「まじか……」

 言ったそばから、彼は「はぁ」と溜息をついた。

「ほら、今も……」

 私が指摘すると、彼は罰が悪そうに項垂れて大きな手の平で目元を覆った。
 それからしばらくして私をちらりと見ると、今度はキュッと優しく抱きしめてくれた。

「ごめん、俺、言葉が足らなかったよな」

 彼の腕の中で、私はふるふると首を振る。
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