Tell me !!〜課長と始める恋する時間
「杏子、我慢することないんだよ。それは課長さんも同じだよ。お互いに惹かれ合っているのに別れるなんてそんなの間違ってる。」


「だけど…」


「そもそも課長さんもいけないわよ。好きでもない人と結婚したってその相手が幸せになれる訳ないじゃない。結婚なんてものは結婚した後からが本番なんだから。幸せじゃない結婚生活なんて続くわけない。」


そんなの理屈では分かってるよ。お母さんに言われなくたって。


だけど、どうしようもないのだから仕方ないじゃん。


「素直になればいいじゃない。さっきのタケシみたいに派手に転んで無様な格好してでも好きな人、追いかければいいでしょ?」


「だけど、課長には婚約者がいるって…」


「杏子はそれで本当に課長さんが幸せになれると思ってるの?」


「えっ、課長が幸せに?」


「そうよ。本当の愛ならね、その人の幸せを心から願うものよ。好きな人が幸せな人生を送ること。課長さんが好きでもない人と結婚して幸せになれる?本気でそう思ってるの?」


こんなにもお母さんが真面目に話すなんて事ないから、正直戸惑う。


「それにね、私やお父さん、そしてマサルもあんたの幸せを願ってるのよ。私達はあんたが笑って過ごせる事を願ってる。それが家族ってもんでしょ?」


「お母さん…」


いつもは面倒で仕方ない家族の愛情も今は素直に受け止める事が出来る。


家族のみんなが私を大切に思ってくれているのがお母さんの言葉からヒシヒシと伝わってくる。


私だって家族を大切に思う気持ちは同じ。


そして、課長を大切に思う気持ちだって…課長の幸せを誰よりも願っているのは…


私なのだから。


「ありがとう、お母さん。」


なんでもないフリをしながらもらこうして私の事を心配してくれる家族に感謝しなきゃだ。


「とは言え、ここで私とあんたが話しててもこれと言った解決策は出てこないわよねぇ。」


お母さんがため息混じりに言う。


ドラマの再生が終わり、テレビ画面がそのまま静止画像になっている。


それを見ていると今の私のようだと思った。


どんなに先送りしようとしても時が止まったみたいにそこから進むことが出来ないでいる。







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