Tell me !!〜課長と始める恋する時間
「へえ…いないんだ。それで僕の事を聞いてどうするつもりだったんです?彼女にでもなるつもり?」


「えっ、そんな事は……」


相変わらず物凄く近い距離から課長が聞いてくる。


静かなフロアに私の心臓の音が響きそうな気がしてくる。


「どうして?僕に興味があるんでしょ?」


ほんの少し課長の表情が緩んだ気がした。


今なら言えるかも。


素直に私の気持ち、言ってもいいってこと?


「わ、私、前からずっと課長の事が気になっていて…。」


言ったぁ。


遂に言ってしまった。


玉砕するの分かってるから告白するつもりなんてなかったのに。


こっそり見てるだけで良かったのに。


課長は所謂、イケメンの部類に入る。


なにも私自身がそんなイケメン課長の彼女になろうとかたいそれた事、思わない。確かに課長の事が好きだけどどこをどう取っても平均以下の私からすれば課長は雲の上の上のそのまたずっと上の人。


私にはテレビに出てくるイケメン俳優と同じ並び、遠い存在の憧れの人なのだ。


この密かに抱いている思いをどうにかしようなんてとんでもない。


幸いにも同じ課にいるから、課長の生(なま)の姿をそっと盗み見るだけで私は十分満足している。


それなのにそんな事を聞いてしまったのは、ただ単に気になったから。こんなにモテる人だから当然彼女くらいいるんだろうなって。


芸能人が陰でこっそり付き合ってるように、課長にもそんな人がいるのかもしれないって。


どうしてかと言うとこんなにもイケメンなのに社内で課長の浮いた話って聞いた事がないから。


課長は仕事一筋人間でそしてとても厳しい。それは男女問わず誰に対してもだ。


もちろん、側で見てきた私は課長がそれだけ仕事に熱意をもって取り組んでいるからだと分かってはいるけれど日頃から表情一つ崩さないクールな課長を見ていると近寄り難いものがある。


それで影で付いたあだ名がスノーマン。


課長のあの冷ややかな目で睨まれると瞬時に凍ってしまうんじゃないかって。


それでも何人か課長に告白した人がいるという噂は聞いた事がある。もちろん、みんな見事に玉砕したらしいけれど。


難攻不落のイケメン課長。そんな人に彼女なんてものはいるの?


そんなちょっとした興味本位から出た言葉がこんな事態を招くなんて。


数分前までは思いもしなかった。


目の前には相変わらず課長が私の顔を上げ、じっとこちらを見下ろしている。


するとゆっくりとお互いの顔と顔との距離が縮まって………


嘘…キス?


それが課長の返事って事?


本当に?


私は素直に瞼を閉じた。















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