Tell me !!〜課長と始める恋する時間
「あの…課長、ここは…?」


「何か問題でも?」


「いえ、なんて言うか…」


戸惑う私の顔を見て課長が落胆気味に言う。


「そうですか、やはりここじゃ駄目ですか。困ったな。僕、ここ以外で食事する事ってあまりないからなぁ。他とかよく知らなくて。」


「えっ、ここ以外で食事した事ないんですか?」


私達が今、立っている目の前にあるお店。


高級なフレンチのお店でもなく、お洒落なイタリアンでもなく、大人の隠れ家的な和食のお店でも無い。


そこに見えるはオレンジ色した看板の誰もが知ってるあのチェーン店。


牛丼屋さんだった。


て言うか…課長のイメージとはかけ離れ過ぎていてどう突っ込めば良いのやら……。


「どうします、桃原さん?お腹、相当空いてるんですよね?他、探します?」


そうだった。あまりにも予想外の出来事でつい空腹を忘れていた。もういいや。


「はい、もう腹ペコなんでとにかく、入りましょう、課長。」


なれた様子でカウンター席へ着く課長。私もその隣に並んで座る。


「何を頼みますか?」


「えっ、えっと…課長と同じもので。」


実はこういった牛丼屋さんに一度も入ったことのない私。何をどうすればいいのか分からない。ここはしおらしく課長にお任せした方が無難だろう。どうせ出てくるのは全部牛丼なんだし。


「僕と同じものですね、分かりました。すいません、大盛りを二つお願いします。あっ、後、つゆだくで。」


カウンター内の店員さんに声を掛ける課長。


「えっ?」


課長、まさかの大盛り?しかもつゆだく?草とか食べてんじゃないの?木の実とか…ほら、どんぐりとかポケットにしのばせてんじゃないの?


その間にもカウンターの中にいた店員さんの威勢のいい声が店内に響く。


「大盛りつゆだく、二丁。」


すると店の奥にいた人も「あいよぉ、大盛りつゆだく二丁。」


と、これまた威勢のいい声を返してくる。


何となく、店内にいる他のお客さん達(ほぼ男性)からの視線を感じるのですが。


や、やめてくれ……この羞恥プレイ的な状態に耐えれんのですけど。


「あのっ。」


「どうしました?」


涼し気な顔してお冷を飲む課長。まぁ、想定内だけど。


「お、大盛りって今、言いました?言いましたよね?」


「ええ、僕と同じもので良かったんですよね?あっ、もしかして足りないとか?今ならメガ盛りに変更もーーー」


「足りますっ。足りる。大盛り十分ですっ。」


「そうですか。相当空腹と言ってたのでもしかして足りないのかと思いました。空腹で死なれては困りますからね。」


うん、言うたよ。


空腹で死にそうと言うたよ。


だけどほんとに死ぬわけ無いじゃん。大盛りってどんだけよ。


て言うか、課長、意外にも食べるなぁ。









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