Tell me !!〜課長と始める恋する時間
リビングに入るとお父さんが神妙な面持ちを無理矢理作って待ち構えていた。


昔から真面目な顔をすればするほど笑えてくるうちのお父さんの顔。


しかしここで私がぷっと笑おうものなら何を言われるやら。全てがぶち壊しだ。


「今日はお招き頂きありがとうございます。お言葉に甘えて早速、お邪魔させていただいております。こちらお好きだと伺いましたのでどうぞ皆様でお召し上がりください。」


私の隣に座る課長がうちに来る前にデパートで買った老舗和菓子ブランドの手土産を差し出す。


その瞬間、うちのお父さんの鼻が微かにピクリと動いたのが分かった。


やっぱり、とらやの羊羹にして間違いなかったか。


お父さん、ここの羊羹に目が無いんだよねぇ。


お酒好きな癖にここの羊羹は別なんだよね。


「あらぁ、すいません。気を使っていただいて。」


と、とらやの包みを受け取りご機嫌のお母さん。


お母さんも和菓子に目がないしね。


「いえ。こちらこそ、食事に誘って頂き嬉しく思います。」


て言うか…課長、随分と愛想良くない?


こんな人だっけ?


だって普段と違うじゃん。


いつもは能面みたいなのに。


やはり若くして出世コースに乗るだけの事はあるよね。


こういう事、ちゃんと出来る人なんだね。


今更ながら知るという。


課長を招いての晩ご飯メニューはすき焼き。


桃原家のおもてなし定番メニュー。


桃原家は来客があったりすると必ずと言っていいくらい、すき焼きでもてなす。


そして、そのすき焼きを仕切るのはーーー










「よーし、今から肉を入れるぞ。」


お父さんなのだ。


昔からそうなんだよね。  


他の鍋では菜箸一本すら持たないお父さんだけどすき焼きに関しては独自のこだわりがあるらしく、やたらと仕切りたがる。


「とても美味しいです。」


お父さんに進められるがままお肉を口に含む課長。


「おう、そうか。肉もまだまだある。遠慮せず食べてくれ。」


「はい。お言葉に甘えて。」


なんだかんだと言いながら次から次へと箸をすすめる課長。


うちのお父さんに気を使って無理して食べてるのかな?にしては本当に美味しそうによく食べる。


あっ、そうだ。


課長と言えば週5、牛丼屋の人じゃん。


そっかぁ。


そりゃ、牛丼屋に比べりゃ美味しい筈だよ。








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