生徒だけど寮母やります!2
追想
20××年 12月 28日
ジンと手がかじかむような寒さの中
入学以来、約9ヶ月ぶりに実家の大きな門を目の前にして、爽馬は立ち止まった
入るのをためらっていると、そこに現れた懐かしい人物に、爽馬はそちらを向いた
「一条さん」
小さいころから面倒を見てもらっている、年老いたお手伝いさんだ
「あらあら、大きくなったねぇ。一瞬誰だかしんと思ったっけよ」
独特の訛りと共にくしゃりと笑う一条の方は、前よりも年老いたのがよく分かった
「さ、冷える冷える、早く中に入るさ」
爽馬は一条に続いて、よく勝手を知る大きな平屋の家へと足を踏み入れる
心の底から入りたくないと
そう思っていた
彼女は爽馬を居間に通すと、同じく居間で本を読んでいた爽馬の姉の分と共にお茶を出し、また仕事へと戻っていった
パラ.....と、姉が本のページをめくる音だけが空間に響く
爽馬は、茶には手をつけずに、視線を本に落としたままの彼女を見た
「..........何」
姉、エマは本を読みながらそう呟く
爽馬が「別に」と視線をそらすと、エマは表情を変えぬまま
「高校生活は楽しかった?」
そう尋ねた
胸に突き刺さるような質問だと思った
「僕は.....あの高校をまだ辞めるつもりはない」
「..........そう。頑張って」
姉が悪いわけではないことはわかっている
それでも心にもないエールを送るエマと同じ空間にいることが何だか気持ち悪くて、爽馬は茶に口をつけぬまま居間から出て行った