生徒だけど寮母やります!2
こいつは何も分かっていない
景を妖術結社に入れるなど、そんなこと出来るはずがない
爽馬は冷静にそう考える
「何のために.....」
しかし父親は彼の考えを見透かしているのだろう、ついでに付け加えるように口を開いた
「まだ妖術結社の一員でもないお前に詳しくは言えないが、色々あって笠上景が必要になった。まぁ、お前は無理だと思うかもしれないがね.....。妖術結社には彼女の姉である笠上美音が所属している。笠上美音の名前を出せば、笠上景はおそらく妖術結社に入るか、そうでなくとも必ず我々に接近しようとするだろう」
「..........!?」
なんだと.....!?
爽馬は以前、景の口から失踪したと聞いていた、彼女の姉『笠上美音』の名前を聞いて大きく目を見開いた
笠上美音は.....妖術結社にいる!?
魔術科の生徒であるにも関わらず!?
景共々、一体何のために妖術結社から必要とされているのか.....
爽馬は勢いで開きかけた口をギュッと閉じ、冷静になるよう暫く目を瞑った
「だから爽馬、提案しよう。
お前が大人しく妖術結社に来るようなら、笠上景を妖術結社に勧誘する話は一旦取り消す。しかしお前が依然、拒否する姿勢を取るのなら、笠上景にその話を持ちかけさせてもらおう。
無論、この件をお前から笠上景含む他者へ漏らした場合は、こちらの好きにすることになると思え」
そういうことか..........
爽馬の頭を支配した言葉は
『絶望』だった
まるで、自分そのものを表すかのような言葉だ
もともと、自分が妖術結社の駒になる事は運命なのだ
それなのに、望みをもってはいけない身分でありながら、景に出会い、男子寮Bのライ、結斗、咲夜、市河に出会い
『希望』を知ってしまった
他者と触れ合っても、何が起きても、感情をコントロールし動かさずにいたのはきっと、こうなる事がどこかで分かっていたからなのに
あの寮ではそれができなかった
自分の意思で彼らと関わり、同じ感情を共有する事の幸福感を、覚えてしまったのだ
自分にそれを教えてくれた景は絶対に
妖術結社などという、ふざけた組織に入ってはならない
彼女にはこれからも、男子寮Bで温かな寮母であり続けて欲しい
これは何と引き換えても、『絶対』だ
彼女の笑顔が守れるなら、自分はなんだってしよう
そう思うのに、彼女に触りたくて、ずっと自分の隣で微笑んでいて欲しくて
彼女のいる毎日を捨てる事がこんなにも怖いと思ってしまう
.....自分らしくない
そんな自分らしくない自分が、音を立てて崩れてしまう気がした