今治
吸い終わり、再び、座席に着き、慎平は、ガソリンメーターを見た。
「ガソリン入れたほうがええね」
慎平の問いに、「それなら延喜グラウンドの坂を下ったところにあったはず」というので、行ってみることにした。
「あ、あと、寒くないけんね?」
と、京子に念を押され、「間違えるわけがない」と言っておきながら、また、助手席の窓が開いた。
「本当に大丈夫なん? 運転代わろうか?」
と京子に言われた慎平だが、もちろん、これは慎平がわざとやっただけで、同じ間違いは二度としない。
水色のタントは、動き出し、山を上がっていく。曲がりくねった道をずいずいと上り、左手にやり投げ選手の村上幸史選手の母校がある。
「そういえば、来たよね、やり投げの」
学校に来て、やり投げを披露したのだが、学校のグラウンドを対角線にバックネットまで軽々投げたあの感動は、今も慎平の中に残っている。
「あれ、ほんとすごかったよな。軽々シューンって」
あの日本で1位の人の大きな手で握手されたときは、その日一日、慎平は、手を洗わなかったほど、彼の生き方にも感銘を受けた。