今治





そのやり投げ選手の母校を過ぎると、べた踏みの坂を上る。




ここを慎平は、サッカー部の練習で走って上った。今考えると、本当にきつかったし、よくあの距離を走って行けたものだと当時の自分に感心する。




そして、上りきり、そこから、坂になる。その途中の右手にあるのが延喜グラウンドだ。ここで、よく練習をしたものだ。




「どうせなら寄っていく?」




との京子の提案で、車を停め、グラウンドに入った。本来なら、ここでサッカーをする予定だったのだが、もう手前の阿方公園ですっかり飽きてしまったのか、二人ともボールを持ち出さず、降りた。




「ねえ、ここで練習しとったんよね?」




京子の問いに慎平は、うんと頷く。




「実際、あの中で誰が一番上手かったん?」




「俺」




「えー、マッキーやろ?」




マッキーとは、牧田 幸雄(まきた ゆきお)で、慎平と京子と同じクラスだった。もちろん、サッカー部である。




そのマッキーと慎平は、一度、喧嘩をしたことがある。




くだらない喧嘩で、練習中のミニゲームで、敵チームになったマッキーに、なぜ今でもあんなことをしたのか、わからないが、ゲーム中、慎平は、マッキーに執拗にプレスをしていた。




それに対抗するように、マッキーもラフプレーをし、それに怒った慎平が、マッキーの腰に膝を当て、マッキーを倒した。




それをたまたま見ていたコーチに「頭冷やして来い」と言われ、マッキーが先に、慎平が後から外周を走らされた。




小雨が降っていたにも関わらず、走らされたところで、頭が冷えるわけもなく、謝るなんてことは慎平の方からは、絶対にしたくない。




しかし、走り終わって、マッキーの方から「ごめん」と言わた。実際は、慎平の方が悪いだけに、この時ばかりは、申し訳なくなった。





そんなマッキーと付き合っていたのか、いなかったのか、そういう噂があった女の子、名前を松山京子という。




慎平の同級生で、今、慎平のそばで錆びついたサッカーゴールにもたれかかっている女性である。





< 36 / 56 >

この作品をシェア

pagetop