今治
「久しぶり、どうしたの?」
「ああ、お前、今、今治に帰ってきとるんやろ?」
「今」「今治」に帰ってきとるんやろ? この言葉が慎平にとっては、深い言葉である。
「ああ、そうだよ」
「お前、それなら連絡しろや。せっかく、バイト休んでお前と同じ時期に実家帰ろうと思ったのに」
里中は、高校を卒業後、神戸の大学に進学して、今年の秋に広島市役所に就職が決まって、今はバイト漬けの毎日らしい。しかし、慎平には、その会話が入ってこないくらい、公衆電話が目の前にあるのに、スマホで電話をしているこの空間が異様で気になった。
「で、いつまでそっちいんの?」
「それは、『あいつ』次第かな」
「『あいつ』? お前、まさか____」
ツーツーという音が聴こえてきた。慎平は、公衆電話の個室から出て、デッキから窓外の景色を見た。さっきよりも真っ暗で、そこで初めて慎平は、トンネルを通過中であることに気が付いた。
トンネルを抜けた先に見えた景色から、なぜか懐かしい匂いがして、目と鼻も繋がっているんだなと慎平は、感心した。