今治





海岸沿いを走り、菊間町までやってきた。




ここは、冬場は、大しけになり、海岸の波が壁を乗り越え、車にかかるのだが、今日は、比較的穏やかだった。




ここにあるお寺で慎平は、お払いのようなものをしてもらったことがある。あれがどういうものなのかわからなかったが、多分、父親か母親の厄年で、それを払うものだったような気がする。




お経を正座しながら聞き、その後でお坊さんに文庫本くらいの厚さのある、何かで意味のわからないことを言われ、慎平の聞き取れたのは、「いい子になりますように」と言う部分だけで、そのあとにその厚い文庫本で肩をバシッと叩かれる。




いい子になるには、いい子になるように怒る。という育て方をされた慎平だが、何度も何度も母親から叩かれて育ったにもかかわらず、ここへ来る前の車の中で兄弟喧嘩をし、叩かれているにもかかわらず、お坊さんに叩かれたところでいい子になるわけがない。




事実、慎平は、このお寺の帰りにも兄弟喧嘩をし、母親から頭をこつんとやられている。




そういえば、慎平のおばあちゃんのおばさんが死んだ時も、この道を通った。波方に今はないが、当時、中四国フェリーというものがあり、それに乗って、広島に行くためにこの道を通った。




その時は、海が時化ていて、車に波がかかっていて、しかし、BGMは、「ひょっこりひょうたん島」で、「だけど僕らはくじけない」と車は気にせず進む。




しかも、道中、ずっと「ひょっこりひょうたん島」のリピートで、人生であれほど「ひょっこりひょうたん島」を聴いたことは、慎平にはない。





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