今治
彼女は、シートベルトをしながら聞いた。
「まあでも、小説の続きは、作りに行こうよ。どこ行く?」
「そうやね……なら、ここから一番近い、宇和島でも行く?」
「そういえば、宇和島の話も書いとったよね? 確か……」
「『私のちょっとだけ好きな9文字の人』と『ハートの形した花』やろ?」
「それ! それも実話なん?」
「まあ、実際にあったこともあるよ」
「まじか! よーし、じゃあ、お姉さんと聖地巡りといきますか!」
「聖地って大袈裟。それに、お姉さんって、俺と同い年やろ?」
「いいのいいの。ほら、出発だ!」
そう言って、「約束の朝」のリズムに合わせてハンドルを切る女性こそ、松山京子のモデルである。
そして、そんな彼女を横目で見ながら、シートベルトを締め、ドアポケットに肘をつき、日の出の松山の町を見ている男、名前を椎名晴という。
幸田慎平のモデルであり、『今治』の作者であり、これから始まる『今治』の続きをどう脚色しようかと考えている男である。
完