今治
それにしても、カチッカチッという音が止まない。ため息のようなものまで聞こえるが、果たしてそれが煙を吐く、慎平のものなのか、ヤンキーのものなのかわからない。風の音ではなさそうだ。
慎平は、ヤンキーの方をチラッと見た。ヤンキーは、ライターを振ったり、手で覆ったりしながらまだカチッカチッとやっている。
「あの……よかったら、どうぞ」
慎平は、ヤンキーに自分のライターを差し出した。ヤンキーは、一瞬、目を丸くしたが、すぐに腰を低くして、「すんません」と慎平のライターを両手で受け取った。いい人だと慎平は思った。
しかし、ヤンキーは、慎平のライターでもまだカチッカチッとしている。「あれ? あれ?」と小さく声が聞こえてきて、慎平も冷汗が止まらない。
「すみません……もしかしたら、もうオイルが残ってないかも……」と慎平は、右手を出して、ヤンキーは、ライターをさっきの姿勢より、ちょっと腰を高くして慎平に渡した。
受け取るなり、慎平もライターをいじるが、カチッカチッと音が鳴るだけで、火はつかない。
「すみません……やっぱり、つかないみたいで……よかったら、僕の煙草の火を使ってください」
そう言って、慎平は、まだ火のついている煙草をヤンキーに渡したが、ヤンキーは首を横に振った。
「いいんスよ。これ、多分、俺に煙草やめろっていう神様のお告げかもしんないっすから」
というわけのわからない理由で、ヤンキーは、慎平の煙草を拒んだ。