エリート医師に結婚しろと迫られてます
「し、知らないのって私だけってこと?」
そうですって認めるのも、癪に障るけど、本当にわかんない。
さっぱりだ。あああ…何も思い出せない。
「麻結?まさか…これでも、まだ思い出さないの?」
彼は、私の様子を見て、さらにプレッシャーをかけて喜んでる。
「森谷さん、あなたみたいに格好良くて、目立つ人なら絶対に覚えてるはずだから、やっぱり昔のあなたには会ってない。多分」
もう、開き直ろう。
「そこまでいうなら、覚悟してもらおうかな。もし、僕の言うとおりだったら、僕の望むこと全部聞いてもらうよ」
「降参する…わかりました。もう、わかったから教えて」
「ここじゃ、教えられない」
「何のためにここにきたのよ」
どこまで引っ張るのよ。
「海を見るため。それに…勇気をもらうため」
彼は、柔らかな日差しに反射して、キラキラ光る海を見つめて言う。
「君は…本当に酷い人だなと思って」
「ん?」
さっき、自信ない、なんてしおらしい事言ってましたが…
普段の自信たっぷりなところと、こういう、何かで悩んでるみたいな思いつめた表情が、森谷さんの中に混在していて、つい、どうしたの?って聞きたくなる。
「じゃあ…行こうか」
彼は、車に乗ってといい、助手席のドアを開けた。森谷さんは、やけに嬉しそうだ。
車は、ほんの数分走って家の前で停まった。
「家?」
「そうだよ…おばさんに頼んでおいたから、いくら鈍い君でも、それで分かると思う」
「そうですか…」
心配して損した。
彼は、いつもの余裕のある顔に戻っていた。
土曜日の朝、両親はまだクリニックで診察してる時間だ。