伝えたい。あなたに。
子供に人気のありそうな曲を弾く。



たまにアレンジを加えて。



タッチミスがあっても誰も気にも留めない。



昔はよく手を叩かれたのに。



楽しいはずなのに、大好きなはずなのに。



苦い思い出が不随してくるのは、無意識だ。



子供の元気な声は沈んだ気持ちを、グッと押し上げてくれる。



パーティも終盤になってきた頃。



ひとりの女の子が、ピアノに近づいてきた。



『お姉ちゃん、どうしてここにいるの?』



なんと答えるのが正解なのだろう。



『私はね、皆んなが楽しくなれるようにだよ。』



『でも、そのお洋服、私と同じ。先生にもしもしして貰うの?』



『うん。して貰うよ。』



『痛いことイヤ?みーちゃんはきらい。』



『うん。私も痛いのはいやだけど。頑張るんだよ。』



私が言えることではないが。



まさか、逃げたらいいなんていえない。



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