伝えたい。あなたに。
『こんにちは。佐々木と申します。初めてなので、よろしくおねがいします。』



は、初めて?



本当に大丈夫なのだろうか。



顔がひきつる。



針が刺さる。



痛い。まだ我慢できるけれど。



.......。



長い。



『いった!』



『ごめんなさい、もう一度やり直します。』



失敗だ。



後何回失敗されるのだろう。



山瀬先生は表情一つ変えず、それを見ている。



もう一度、逆の腕に針が刺される。



痛みに思わず、眉間にシワがよる。



『あっ』



あって言った。



また失敗したの?



スピッツの中に血液が半分入ったところで、また針が抜かれる。



大切な血を無駄にしないでほしい。



それでも山瀬先生は助けてくれない。



『あのもう一度いいですか?』



嫌と言ったらどうするのだろう。



『はい。いいですよ。』



仕方なく承諾する。



もう一度針が刺される。



今度はうまく入ったようだ。



でも。



『あっ。』



また、"あっ"だ。



流石に勘弁してほしい。



少し吐き気がする。



頭に血が上っていくような感覚になる。



頭から煙が出そう。



『佐々木、ラストだよ。』



山瀬先生が言う。



もう、アウトでいいのに。



『本当にごめんなさい。ご気分大丈夫ですか?』



正直に言ったら変わってくれるのだろうか。



『大丈夫です。』



俯きがちに言った。



再び針が刺される。


『もっと針を寝かして、角度がありすぎ。』



山瀬先生がアドバイスをする。



今更だと思うが。



体がだるい。



目の前がキラキラして、おもわず机に突っ伏す。



『大丈夫ですか?』



研修医が声をかけてくる。



『はーい。』



こもった声で答えた。



『おわりました。ありがとうございました。』



研修医はホッとしているようだが、起き上がる気になれない。



しばらくこうしていたい。



『佐々木どうするの?』



おそらく私のことを言っているんだと思う。



研修医は動く様子がない。



山瀬先生はため息をつく。



『意識、脈、呼吸を確認して、楽な姿勢にさせてあげるのが最優先。ホッとしてる場合じゃないでしょ。』



『はい。』



今は動かされたくない。



このままにしておいてほしい。



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