絶望エモーション
「俺、もしかして見ちゃいけない光景を見ちゃいましたか?」


葦原五弦(あしはらいづる)。
私より5つ下の25歳。同じITマネジメントグループの後輩にあたる。

涅色の髪は前髪がやや長く、くっきりと整った目鼻立ちに、柔和な笑顔。瞳の色が不思議で琥珀色に見える。
俳優並にカッコいいと女子は噂していた。

とにかく人当たりが最高で、クライアントと会う時、彼を連れていきたがる同僚は多い。
よく笑う人懐っこい質で、先輩や同僚の要請はいつだって二つ返事で快諾する。仕事もできるので、他人を手伝える余裕があるからだろうけど。

その葦原五弦が私を見つめている。
背が高い彼は『見下ろす』といった雰囲気だ。


「九重さん、鎌田部長のことが好きだったんですね。誰のことも興味ないのかと思ってました。意外だなぁ」


「……ちょっと、変な誤解しないで……」


私は涙を大急ぎで拭い、なるべく過剰反応にならないように答える。
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