絶望エモーション
私は、この人当たりのいい後輩がすこぶる苦手だ。

葦原くんは、私の顔をまじまじと見て、可笑しそうに笑った。


「そんな顔で否定しても逆効果ですよ。九重さんの慌てた顔、初めて見ました」


「本当に何でもないの。私、もう帰るから。施錠するけど、葦原くんはまだ残る用事があるの?」


確か、彼は今日のお祝いの会に参加していたはずだ。
私が与野にお金を渡しているときに、近くで他の同僚と大笑いしていたから。


「俺の用事はたいしたことじゃないんで。今は、九重さんに用事があるかなぁ」


ほら、こういうところ。
葦原五弦は苦手。

人が好さそうに見えて、その笑顔は底が見えない。

驚くべきことにこの違和感は私しか感じていないらしい。
同僚はみな、彼を無邪気で可愛い若手のエースだとみている。

どうして気づかないんだろう。

彼の瞳は仄暗い。彼の言葉は、影を含んでいる。
覗き込んだ先は真っ黒な穴で、そこからにゅっと黒い手が伸びてくる。そんなイメージを持ってしまう。
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