絶望エモーション
それじゃあ、葦原くんが連日遅いのはなぜ?

彼にも担当企業があるわけだから、そちらの仕事で遅いのだろうか。
しかし、一番手間がかかっていた案件がすでに終わっているという事実は、私に焦燥を与えた。

葦原くんが遅いのは、他に理由がある?

まさか、他に女性がいたりするのだろうか。
私相手にセックスするのが苦しくなったから、他所で相手を探したとしたら。

そもそも、私たちは恋人同士ですらないのだ。

どうしよう。
葦原くん、今の外出も本当に仕事?

嫌だ、胸の中に真っ黒な暗闇が広がる。
異常な吐き気を覚えた。
自分が自分じゃなくなりそうな不安が指先まで満ちていた。


与野がオフィスを出て行って、私は不穏にざわめく身体を持て余し、むっつりと黙っていた。
横の席の佐賀さんもさすがに声をかけられない様子だった。

すると、私の携帯が振動を始めた。
着信だ。

表示には母の名前が出ている。
変だ。
平日日中に電話をかけてきたことなどない。

妙な予感がして、立ち上がりオフィスから出る。
給湯室を通り過ぎ、トイレの近くでようやく受話をタップした。


「もしもし?母さん?」


『沙都子……!修平が!』


電話口の母はひどく焦った声をしていた。

母が続けた言葉によって、私は急遽会社を早退することになったのだった。




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