絶望エモーション







葦原くんとタクシーでやってきたのは渋谷のタワーホテルだった。
隣接した劇場があり、結婚式なんかも行われるラグジュアリーなホテル。

ラブホテルか何かに連れ込まれるものと思っていたので、逆に驚いた。

考えてみたら、葦原くんとラブホテルなんて組み合わせは似合わないと気づく。
彼は品が良く、口調や所作は育ちが良さそうに見えた。女性と関係を持つときは、彼にとってこうしたところが一般的なのかもしれない。

チェックインを済ませ、ツインルームに入る。

先にシャワーを浴びるよう指示され、その通りにした。
急なことで、替えの下着などは当然ない。アメニティーを使って身体と髪を洗う。

バスローブは抵抗があったので、軽く髪を乾かしてから元のペンシルスカートと白のマオカラーブラウスを着た。


「それじゃ、俺も浴びてきます。逃げるなら今ですよ」


せせら笑う声に耳を塞ぎたくなった。
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