絶望エモーション
Ⅱ 支配者
誰とも深く関わらない人生。
私の生きてきた30年間はそういったものだった。
いじめられた経験はない。
両親も健在で、兄が一人いる。
自分が不遇の幼少期を送ってきたとは思えない。
しかし、何事にも興味関心の薄い子どもだった。
兄の影響はあったかもしれない。
彼は私とは真逆の人間で、生きることに貪欲というか、とにかくエネルギッシュな人だ。
そして、私を溺愛している。
兄と同じ風には生きられなかった。
結果、私は平穏な生活のため目立たず生きる術を独自に身につけた。
自分のためだけに生きる。
生きていくために、仕事をする。
他人とはなるべく関わらない。
怖いから。
失望するのもされるのも、深く関わって相手に期待するからだ。
人にがっかりされたくはない。
それなら関わらなければいい。
葦原五弦に見つかるまで、この生き方は成功していたのだ。