絶望エモーション
佐賀さんが何の悪意も込めずに私に話を振った。
彼女以外の大人は、わずかに息を飲んだ。

入社以来、私に立ち入った話を仕掛けてくる人間は稀。
私は社内では非常に地味で、目立たないアラサーOLに位置している。楽しい話なんか持ち合わせがないのは周知の事実。

私は穏やかに笑って見せた。
場の妙な緊張感を緩和させたかったからだ。

だって、今日は未來さんの大事なお祝い。険悪な雰囲気を出したくない。


「うん、そうね。未來さんが幸せになるのは嬉しいけど、うらやましいかな」


自分から『地雷原ではないですよ』という釈明をする。

本当は笑顔も会話も苦手。こんな風に自分の弱みをさらけ出して会話の糸口にだってしたくない。
昔からとにかくコミュニケーションが下手なのだ。


「なによ、九重沙都子(ここのえさとこ)~、私には全然そんな素振り見せないじゃない」


未來さんがすでに酔っぱらったかのように、私に絡んでくる。
肩に腕を回され、ぐいと身体を引き寄せられた。

私の右肩に伝わる未來さんの心音。
心臓がぎゅっと収縮した。
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