絶望エモーション
女子たちと約束をとりつけ、葦原くんは書類を他部署に渡すためパーテーションの出口である私と佐賀さんの近くを通りかかった。

私と隣の席の佐賀さんはいつもどおり仕事をしていた。
ついでといったふうに、葦原くんが佐賀さんに話しかける。


「来週、ごはんだってさ」


「うん、聞こえてた」


葦原くんと佐賀さんは同期だ。私と与野くらい、同期であるという以外接点のないふたりだけど。


「佐賀と九重さんもどうですか?」


葦原くんがニヤッと笑って言う。その笑顔が、私への揶揄であることは明らか。
佐賀さんにはモテ自慢に見えたらしく顔をしかめた。


「行かない。葦原ファンクラブの一員だと思われたくないし。ねー、九重さん」


佐賀さんがちょうどよく同意を求めてくるので、私はコクコクと頷いた。


「そんなこと言わないで一緒に行きましょう。ね?九重さんだけでも」


葦原くんが腰を折り、私に顔を近づける。
ぞっとした。
昨夜の彼が浮かんだからだ。

逃げようとする私の身体を押さえつけた彼は、ちょうどこんな風に余裕たっぷりに微笑んでいた。


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