絶望エモーション
Ⅲ 溺れて、拒む
『沙都子、元気にしていますか。
父さんも母さんもなかなか帰ってこないおまえを心配しています。
今度、会おう。
おまえの都合のいい時に、俺も時間を作ります。』
兄からメールがきた。
兄である九重修平は私より5つ年上。ちょうど未來さんと同い年だ。
関西の国立大出身で、今は実家から会社である証券会社に通勤している。会社では課長職だそうだ。
私は困惑しながらメールフォームを閉じた。
私の実家は文京区にある。父が製薬会社の役員をしていたせいもあるけれど、比較的富裕な層が暮らす地域に自宅がある。
私の職場からも充分通勤圏内。
しかし、私は東横線の学芸大学駅近くにマンションを借り、実家に寄り付かない。
兄とはもうずっと前から距離を置いている。
兄が想ってくれるほど、私が兄を想えないのだ。