絶望エモーション
私、九重沙都子は生まれてこの方、誰かと愛をはぐくんだことがない。

恋と名のつくものには縁がなかった。

それは自分から避けていた部分もあるけれど、往々にしてあるように男性が私を目に留めなかったことも理由だろう。

地味で物静かで退屈そうな30歳。
それがオフィスでの私。
プライベートを合わせたって、訂正する余地がない。

ただ、私の胸は今現在、猛烈に痛い。
もだえるほどに痛い。


二子玉川駅ほど近くのイタリアンから抜け出すと、二子玉川ライズ内にあるオフィスに向かった。

帰るなら駅だ。
だけど、帰りたいわけでもなかった。

足が自然とオフィスに向かったのは、気晴らしに仕事でもこなして帰ろうと思ったからだ。

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