From..
「……聞きたいことはそれだけ?」

何だか気まずい空気になってしまったので俺は早くこの場を離れたかった。

「そんなに私と話したくない……?」

「え?」

「私が令志君と付き合ってから……翔君、全然私と話してくれないしさ!名前で呼んでくれないし……」

俺は何も返す言葉がでなかった。口を開こうにしても、意識に反して言葉は出てこない。

「ねぇ翔君。私の本当の気持ち伝えてもいいかな……?私は、令志君じゃなくて翔君が……」

「ダメだ!!」

俺は浅香さんの言葉を遮る。ダメだ。この先の言葉を聞く勇気が俺にはない。

「その先の言葉を……俺に届けちゃダメだ」

「……して?」

「え?」

「どうして?」

俺は、そんな浅香さんに自分の気持ちを伝えたい衝動にかられてしまった。俺は必死で噛み殺す。

「浅香さんには令志の奴がいるだろ……」

「私が令志君と付き合ったのはね……」

「次が、午前の部最後のプログラムです。クラス選抜リレー予選。出場する選手は至急、入場門に集まってください」

「浅香さん!ごめん!俺行かなくちゃ……」

俺はアナウンスを理由にその場を立ち去った。

背後から浅香さんのすすり泣く声が聞こえたが、俺は聞こえないフリを決め込んだ。

俺は、浅香さんのこと大好きだ。だけど、令志との友情も壊したくない。

言ってみればただの臆病な安全信者なんだ。
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