From..
ザザーン。

波の音がやけに耳につく。
時刻は20時。

俺は隣に佇む紫音の言葉をただ待っていた。いつもとは違う紫音の様子に俺は戸惑っていた。

ザザーン。

「……うする?」

「え……?」

「もし……。もしだよ?私が翔の前から消えちゃったらどうする?」

俺は言葉を失った。紫音は何を言ってるんだ……?

「ねぇ、黙ってないで答えてよ!しょ…う…」

俺の体を激しく揺さぶって答えを促す紫音。回りが暗いから分からないが……紫音は泣いている気がした。

「もし、ってこと考えるのは嫌なんだ……俺」

「…それじゃ答えになってないよ」

「紫音は俺から絶対消えない」

紫音は俺の言葉に、揺さぶる手をピタリと止めた。

「紫音が消えたら?紫音なら俺の心にずっと、しつこく残るだろ?仮に紫音が遠くにいったとしても俺の中の紫音は絶対に消えない」

「翔……」

「だから消えるなんて言うなよ」

「馬鹿だね私……」

目を擦りながら紫音は呟く。

「無理すんなよ。今はしゃべらなくていい」

「翔は昔のまま変わらないんだね?ずっと純粋で…私にはそれが羨ましくて……」

「お前、中学の時より綺麗になったよな」

俺がそう言うと紫音はクスッと小さく笑った。

「馬鹿。そういう意味じゃないよ。ねぇ、私達……いつまでも友達だよね?」

「いつまでも友達。友達に期限なんてないよ?」

俺の言葉に紫音は最高の笑顔で頷き、その後は一言も言葉を発さなかった。

ザザーン。
波の音がやけに耳に残る。

俺はこの時、口には出さなかったけど、紫音がどこかに行ってしまうんじゃないかと、不安になった。

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