From..
ザザーン。
単調な波の音だけが静寂な空気を震わせる。

俺は隣にいる彼女をただただ眺めていた。

今の時刻は21時。すっかり暗くなってしまった海は正直不気味だった。

「話って何かな…?」

俺の彼女、百合菜が沈黙に耐え切れなくなったのか俺に問う。

「…今までありがとな」

「え?」

「もう、嫌なんだ」

「れ…令志君?」

「俺じゃなくて、翔のことを見てるのが……」

実際、百合菜はそうだった。その百合菜の透き通るような瞳に写っていたのは…俺じゃなくて翔だった。ただそれだけのことだ。

百合菜の瞳にはじんわりと涙が広がっている。

やめてくれ。俺の為に泣くのは……やめてくれ…。

「別れよう」

俺から切り出した言葉。
それは辛い……辛いサヨナラの言葉。

「ずっと…思ってたんだよな。百合菜の横にいる男は俺じゃないって……」

百合菜は黙って俺の言葉に耳を傾けてくれている。

「ずっと…分かっていたんだ。こんなこと…してても…何の…解決にもならないって…」

必死に塞いでいた涙がとめどなく溢れていった。

「だけど…ずっと…お前だけを見ていたんだ…。ずっと…好きだったんだお前のこと…」

「ありがとう」

そう言って百合菜は俺の目を見て笑った。

何だよ百合菜……。お前…そんな可愛い顔で笑えるじゃんかよ…?

俺、ずっと……その顔を待ってたんだぜ?

「私、こんな関係だけど令志君と付き合ってて…楽しかったよ…」

「そっか…。明日から…友達だな…」

「友達じゃなくて親友…かな?また…相談乗ってね?」

俺は、たまらなく百合菜を抱きしめた。

百合菜は一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに表情を崩してこう呟いた。

「今日だけだよ?」

砂浜で抱き締め合う二人。

「今までありがとう」

二人が同時に発した言葉は夜の海に溶けていった。
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