僕から、キミへ
☆☆☆
ある時、僕の病室に、看護師さんがやってきた。
その時僕は発作も起きず、
この間両親が買ってきてくれた漫画を読んでいた所だった。
「カイくん。
今度、この病室に新しい人が来るのよ」
看護師さんが、ベッドの準備をしながら教えてくれた。
「何かの病気なんですか?」
「違うわよ。
事故で、足を骨折してしまったの」
「そうですか……」
怪我なら、いつか退院できる。
退院なんて、僕には程遠い。
生きて、また生活に戻れるまだ知らない人が、羨ましくなって、僕は俯いた。
「カイくん、具合悪い?」
「え?
いや、大丈夫です」
「そう?
何かあったら、ナースコールで呼ぶのよ。
もうすぐで同室になる子、来るからね。仲良くしてあげて」
「わかりました」
看護師さんが出て行き、僕は首を傾げた。
事故に合い、足を骨折してしまった子。
それだけしか聞かされていないけど、一体どんな人なのだろうか?
僕と同い年なのだろうか?男なのだろうか?女なのだろうか?
そんなことを考えていると、病室が3回ほどノックされた。
「ハルナちゃん。ここが病室よ」
先ほどの看護師さんに押される車椅子に乗っているのは、肩までの綺麗な黒髪が印象的な、
パジャマ姿の女の子だった。
「……初めまして」
彼女は僕の姿を見て、ぎこちなく笑うと、会釈をしてくれた。
「……は、初めまして」
滅多に人と、特に女の子となんて話さない僕は、かゆくもないのに頭を掻きながら、頭を下げた。
「今村魁(いまむら・かい)くんよ」
それ以上話さない僕に、看護師さんが代わりに僕の代わりに名前を言ってくれた。
「カイくん。
この子は、辻村晴菜(つじむら・はるな)ちゃん。
カイくんもハルナちゃんも高校生だから、話合うかもしれないわね」
同い年、なのか。
僕らは何も言わず、再び会釈をした。
「ハルナちゃん。
カイくんは、心臓の病気で、呼吸器系も少し弱いの。
発作が起きていたら、すぐにナースコールで教えてほしいの」
「わかりました」
彼女はお姫様抱っこされて看護師さんにベッドに乗せてもらうと、元気よく頷いた。
…彼女は怪我で、発作なんて起こさないから、僕と同じ病室になったのかもしれないな。
僕に何かあった時、すぐに看護師さんを呼べるように。
「じゃあふたり共、仲良くするのよ」
看護師さんが出て行き、彼女は手招きで僕を呼んだ。
「さっきも言ったけど、あたしは辻村晴菜。
ハルナって気軽に呼んでね」
「い、今村魁です…。
よ、呼び方は…何でも、良いです」
「じゃあ、カイくんね。
カイくん、敬語なんて使わなくて良いよ。
カイくんも高校生だって聞いたけど、何年生?」
「…僕、高校には、行ってないよ……」
敬語を使わないで良いと言われたので、慣れていないタメ口を使う。
「え?
だってさっき、看護師さんが…」
「それは多分、僕が16歳だから…」
「16歳?
あたしと同い年だね」
彼女―――ハルナさんは、太陽みたいな眩しい笑顔を見せてくれた。
普段人が僕に見せてくる笑顔は、作ったような笑顔が多い。
そんな中、彼女のような眩しい笑顔を見るのは、久しぶりだった。
「カイくん、心臓の病気なの?」
「そう……」
「入院生活は、長いの?」
「うん。
物心ついた頃には、ずっと病院だよ」
「そうだったんだ。
じゃあ、あたしの病院での先輩だね」
「先輩?
…と言われても僕、滅多に病室から出ないから、わからないよ」
「でも先輩だよ」
ハルナさんは、にっこり笑った。
僕の中で、何かが温かく緩やかに燃えた。